11 レアアイテムの間違えた使用法

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11 レアアイテムの間違えた使用法

Case1 プリシラプレゼンツ・強くてかっこいい魔法使い作戦→失敗。アルス大失恋。 Case2 ラドクリフプレゼンツ・王太子が豪華当て馬作戦→失敗。アルス大失恋。 「本当にまずい。大災害が引き起こされる。アルスは相手が振り向いてくれないなら、いっそ周りを全部滅ぼして二人きりになってしまおうって危険思考の人間だから……」  ラドクリフの口から、絶望的な恨み言がもれた。  広場を囲む石造りの建物の陰から様子を見守っていたプリシラが、耐えきれなかったように飛び出し、石像の前を横切ってラドクリフのそばに駆け寄る。 「ミシュレが手強すぎなんです! もともと恋愛の機微に疎いところがあるとはいえ、あれほどとは……」 「デートで男性としてエスコートしても、魔法使いとしてピンチに駆けつけても、ときめきが生まれない。これで今後ミシュレが侯爵家存続のために縁談を受けたり、他の誰かにひかれてしまったら……。作戦でミシュレを口説いている私のことですら殺しかけるアルスだよ。絶対に相手を殺すよ」 「いまのところ、何をしてもアルスが失恋してしまうんですよね。たしかに私も見ているうちに、『これは無理かな』って気になってきていますが。スペックは最強なのに、なぜ」  兄妹は頭を抱える。  努力をしても裏目に出るばかりか、アルスの魔王的な素質ばかりが見えてきて、しまいにミシュレに押し付けるのが申し訳なく感じてくる始末。  だが、ラドクリフは気持ちを新たにしたように顔を上げると、悲嘆にくれるプリシラに対してきっぱりと言った。 「諦めるのはまだ早い。ミシュレは水竜の前ではアルスに正直な気持ちを言えたわけだろ。その時点では嘘でも、まったくの脈なしではないってことだ。こうなったら、兄妹というのは仮の関係、本来は『他人であること』を思い出させるんだ……!」 「どうするんですか? まさか侯爵夫妻を離婚させて家族を離散させるんですか?」 「え?」  さらりとプリシラの口から出てきた残酷な提案に、ラドクリフは目を見開いた。  一瞬言葉を失ってから「むごいこと言うな」とドン引きした表情で言う。  非難されている気配を感じて、むっとしたようにプリシラが口を尖らせた。 「二人を他人に戻してしまえばいいかと。それ以外で言うとなんでしょうね。水竜様とのやりとりを再現……再現」  呟きながら、胸元で光沢を放っていたペンダントに手を当てた。うっすらと緑がかった、銀色でつやつやと滑らかな表面のペンダントトップ。気づいたラドクリフが、目を瞠る。 「それ、水竜様の」 「はい。鱗です。口にくわえれば、水中で呼吸ができるレアアイテムということですが、別の用法もありまして。使えば、一度だけ水竜様を召喚できるそうです。もっとも、こんな街中で召喚しても被害が甚大になることが予想されますので使う気は……」  無いです、と言いながら表面を撫でているうちに、鱗が不意に明るい光を放った。 「プリシラ、光ってる。願ってないか? ちらっとでもいま水竜様のことを考えたりはしなかったか?」 「ちらっとくらいは考えました。でも、まさかそれで召喚の門が開くなんてことは。水竜様、そこまで強い力の神獣という気配はべつに」  ラドクリフは手を伸ばして、有無を言わさずにペンダントを引きちぎってその場に投げ捨てる。  石畳に落ちた瞬間、鱗は爆発的な光を放った。  プリシラの身を抱いてかばいながら、ラドクリフは声を張り上げた。 「逃げろ!!」  * * * 「ミシュレ。俺たちは食べ物の趣味も合うし、二人で長時間過ごしていても会話に困るということはない。これはもしかして、兄妹としてはもとより、『男女』としても……。うん。どう思う?」 「何がですか? 兄妹はたいていの場合、男女ですよ?」  すらすら何か言っているので、ミシュレはおとなしく耳を澄ませて聞いていたというのに、当のアルスは突然奥歯にものの挟まったような物言いになる。  きょとんとしてミシュレはアルスを見上げた。  アルスはけぶるような群青の瞳を細めて、慎重な様子で話を続行した。 「ところで『兄弟は他人のはじまり』という言葉があるが。これはつまり、どんなに仲睦まじく育っていても、いずれは独立したり互いに家族を持ったりという意味だと俺は考えている」 「はい。もっとも、私たちは元が他人同士で『兄妹』になったわけですから……。これからまた他人に戻ることを考えると寂しいですね。せっかくの結びつきが」  こほん、とアルスは咳払いをして言った。 「他人に戻らない方法もあるな。つまり、ともに同じ家庭を築けば」 「二人とも結婚しないでずっと侯爵家に残るという意味ですか? 家が潰れてしまいますね」 「ミシュレ、そこでもう一声。結婚はしてもいいんじゃないか。つまり、結婚した状態で、二人とも侯爵家に残る方法があるんじゃないだろうか」 「両親と、お兄様、私のそれぞれの家族で三世帯で暮らすということですか。大家族ですね! 相続関係きちんとしておかないと、それなりに大問題になりそうです」  「よし、いいぞ。悪くない。そこでもう一声だ。そこまで家族を大きくしない方法もある。つまりだ、俺とミシュレが」  キシャアアアアアアアアアアッ  動物の嘶きめいた叫び声が、広場に響き渡った。  向かい合った状態から、アルスはとっさにミシュレを背後にかばいながら音のした方へと体を向ける。  空が曇りになったかと錯覚するほど。  広場に、大きな影が落ちていた。
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