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「あのマンションがあったところな……元々一戸建てがあって、女が自殺してるんだと!」
驚け、さあ驚け!と言わんばかりに枝野先輩は声を潜める。僕はポカンとして、つい言ってしまった。
「……そんで?」
「なんだよ冷たい反応だな!それだけだよ悪いか!?」
「いや、有りがちすぎてリアクションに困るんですけど……」
僕の反応が薄かったからか、先輩は心底不満そうである。確かに僕は怖がりだが、だからといってそんなあまりにも曖昧なイメージでびびるほど心臓が弱いわけではないのである。
そもそも、あの土地はタワーマンションが経つだけあって、周囲にはいくつもマンションが立ち並ぶ高層建築のエリアだ。左右にもでかいマンションがずらずらと並んでいるし、あんなのところに一戸建てなんぞ建てたら確実に日陰になると思うのだが。
「女は自分で自分の首を滅多刺しにして死んだんだ。恋人にフラレてな。風呂場を血で真っ赤にしてたんだと……!どうだ、怖いか!?」
「うーん微妙」
「つまんねぇヤツだな!じゃあこれはどうだ?女は自分の恋人と大体同年代のやつを見つけるとな、恋人と勘違いして寄ってくるんだそうだ。そんで、包丁持ってきて“付き合ってくれないと殺すわよ”って脅してくるんだと!きゃーコワーイ!!」
「あんたその声どっから出てるんすか!?」
キャーコワーイ!が到底おっさんらしからぬ声だったので、思わずそっちをツッコんでしまった。おかげでちょっとだけ湧きそうだった怖さも半減である。枝野先輩はますます面白くなかったようで、もっとビビれよばかぁ!とテーブルに突っ伏して嘆き悲しんでいる。実にシュールな図だった。
と、いうか。
「先輩ー、顔上げてくださーい」
僕は引き攣った顔で、言うしかなかったのである。
「その、ウェイトレスさんがさっきからめっちゃ引いてるし困ってることに気づいてー?」
忘れてなかろうか、今は昼休み休憩の時間。自分達はあくまで昼御飯を食べるためにここにいたのだ。
テーブルの横で、僕が頼んだミートソースと先輩が頼んたハンバーグの皿を持ったウェイトレスが、めっちゃ苦笑いでそこに佇んでいるのである。先輩が“どうだ怖いか!?”と言ったあたりから。
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