コージー。

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 ***  先輩の話を信じたわけではない。というか、それを真に受けて怖がったら、あのイタズラ好きな先輩を面白がらせるだけなのである。断じて気にしてなるものか、と僕は思っていた。――思っている時点で、明らかに意識しているのは間違いないのだけれど。 ――そういや、どっかのテレビ番組で言ってたな。……本当の怨霊や地縛霊は、建物を壊しても土地に残ってたりするって。まるでオイルみたいに怨念が染み付いて、絶対に人が住んじゃいけない土地を形成することがあるって……。  まさかここじゃないよな、なんてことを思ってしまう。確かに、この誰がどう見ても便利な土地が、長らく空き地だったというのは変だなと思っていたのだ。人が凄まじい死に方をした土地だと言われたら、納得できてしまう気もする。いや、さすがにこのエリアに一戸建てというのは信憑性がないとは感じるが。 ――あああもう枝野先輩のばかばかはかばか!おかげで余計なことばっか考えるじゃねーか!  昼休憩が終わり、仕事の時間になってもついつい頭に過ぎってしまう。仮設トイレの影、クレーンの脇、骨組みの向こうからちらちらと女の姿が見えたらどうしよう――そんなことを思ってる時点で完全にドツボにハマっている。  ホラー映画は見ないわけではないが、あれは完全なフィクションだと知っているからまだマシなのだ。実録モノのドキュメンタリーとかホラー番組は絶対見るもんかと決めていた。自分の隣に幽霊がいるかもしれないなんて話、見たくも聞きたくもない。自分は平凡に生きて平凡に死ぬ人生がいいのである。呪われて死ぬなどごめんだ、だいたいまだ二十八年しか生きていないというのに! 「桐島ー、そっちの工具箱持ってきてくれるかー?」 「あ、はい」  足場に登って作業している作業員に声をかけられ、僕は彼の方を見た。今は四月だが、例年より随分と気温が高く蒸し暑い日である。彼は丁度僕から逆光になる位置に立っていた。眩し、と思って目を細めた次の瞬間。 「へ」  逆光だ。そう、眩しいのだ。作業をしていた先輩の姿もはっきり見えないほどに。それなのに。 ――な、んで……!?  僕はその時、はっきりと見てしまったのである。  彼の背後、不自然な角度で体を傾けた存在が、にょっきりと顔を出していることに。  不自然なほどくっきり見えたそれは、女の姿をしていた。  長い髪を靡かせ、首が不自然に捻れた女が。先輩の肩越しに、はっきりと僕の方を見ていたのである。
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