死神は私にクローバーを渡す

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ねぇ覚えてますか? 私が産まれた日 今日は授業参観日 お母さんを題材に作文の発表会 もちろん覚えているわ 再婚して。大好きな彼との間に産まれたあなた とっても聞き分けの良い自慢の娘よ 「2度目の人生です 精一杯頑張ります」 …え? 娘の予期せぬ言動に思わず声が出る ねぇ覚えてますか? 泣き止まない私を怒鳴りつけたこと 「今度は泣くのを堪えたよ」 ねぇ覚えてますか? 泣く事しか出来ない私を放置した事 「今度はずっと笑顔でい続けたよ」 ねぇ覚えてますか? 私にご飯を食べさせなかった事 「今度はいっぱい食べさせてくれました」 ねぇ覚えてますか? 眠る私の首を絞めた事 「夢だと思っていた」 ねぇ覚えてますか? 海と山どっちに捨てるか悩んでた事 「私が海が好きなの覚えてくれたんだね 今も海が好きだよ」 ねぇ覚えてますか? それでも私がママを 大好きだった事 ねぇ覚えてますか? 私を殺した事 「今度はいい子でしょ? だってもう三年生になったもん」 ねぇ…私覚えているよ? 私…いい子でしょ? お母さんの嫌がる事… ちゃんと覚えてるよ? だから今度こそ幸せになりたいです 今日は忘れずに来てくれてありがとう また約束のゆびきりげんまんしょーね 作文を読み終わり 娘は席に座り笑顔で私に手を振る 初夏とは思えないほど 教室は凍りついていた す…凄ーい!ホラーな話で 涼しくしてくれたのかな? 担任の先生が口を開いた それに釣られてか 父母達もこの空気を変えるべく 拍手喝采でこの空間を和ませるが その目は怯えていた 私の心音が大きく鼓動するたび 消し去った記憶がにじみだす 妊娠が発覚して逃げたあいつ ろくでもない男との間に産まれたあの子 憎くて仕方なかった いつしかあいつの分身である子に 苛立ちをつのらせた 気がついた時には 私の手は首を絞めていた ごめんね…ごめんね… 言葉とは裏腹に 力みを増すその手は 哀れみなど微塵もない 死体を海へ沈め 気泡が消えたと同時に フッと何か思い詰めていたものまで消えた 何かを成し遂げた様な達成感と これから始まる新生活への期待を 月の光が祝福してくれた それからしばらくして再婚し 今の旦那との間に産まれたあの子 夜泣きもせず 大人しい ああ…やっぱりあいつの子だったから 私を狂気に走らせていたのか そうよ。私は悪くないわ 悪いのはあいつの 遺伝子を強く受け継いでしまった事 自分で自分を納得させた シロツメクサが満開の公園で ピクニックをした日を思い出す その日初めて歩く事が出来た娘は クローバーの葉を握りしめて 屈託のない笑顔で私に歩んできた 「はい。幸せを運んで来たよ」 そう言ってると思った シロツメクサ 広く知られてる名はクローバー 花言葉は「私を思って」「約束」「幸運」 そして 「復讐」 私を思って 約束した事が 裏切られ場合 愛が憎しみに変わり復讐となる という解釈があるそうだ まだ言葉を話せないあの子の 忠告だったのだろうか 私はいつか生まれ変わった娘に 復讐される日を怯えながら この先も生きていく 無邪気な笑顔をした死神は 私にいつも死をチラつかせ 「これからも良き母でいてね」と 言っているのだろうか ねぇねぇお母さん この行方不明のポスターに 載ってる子って私だよね? 今もまだ海の底にいるよ
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