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「坊や、こんな夜更けに出歩いたら危ないわよ。鬼に食べられてしまっても良いの?」
その言葉は真実心の底から出たものではあったが、女は違和感を覚えた。違う、私はこんなことを言うような女じゃないだろう。しかし、であればお前はどういう女なのだ――――と自問してみても、納得のいく答えなど出てこなかった。
やはりどこか夢心地だ。私はいったい何者なのだろうか。
「あ――、あ……」
少年は腰を抜かしたまま震えている。その口からは嗚咽のような、声にならぬ悲鳴が漏れていた。しかしその表情からは、ただひたすら声を荒げて絶叫しようとしているかのような必死さも垣間見える。そうでもしなければ正気でいられない、というように。だがどれだけ声を出そうとしても、それは形にならない。目の前の女のせいで悲鳴を上げようとしているのに、その女のせいでそれは叶わないのだ。
「困ったわ。坊や、一体どうしてしまったの? お母さんと喧嘩でもした?」
だが女はそんなことなど理解していなかった。自分が原因でこの童子は怯え切っているのだと、露程も思っていない。
泣いているのをいるのを見ると心が痛む。慰めたい、子供には笑っていて欲しい。
どうすればこの子が安らぐことができるのかと考えながらも、自分の中で違和感が大きくなっていくのを止められない。自分はそういうモノではないのだと、心の奥底で何かが否定してくる。
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