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女が近づこうと歩み寄ると、少年は必死の形相で後退る。逃げようとしているのだが、腰が抜けてしまっているのでそうもいかない。
その幼い瞳に映るモノを恐れ、忌避しているのだ。その瞳は、まるでこの世のモノではない――酷く奇怪な存在を見ているとでも言うように、恐怖で揺れていた。視界の中にソレを収めることを、何よりも拒んでいる。
「ああ」
ふと、女の頭にある言葉が浮かび上がる。唐突に、しかし必然的に訪れた天啓とでも言うべきか。一つ出てくれば、二つ、三つと――次々と女は思い出していく。これは詩だ。しかも、童子を慰めるにはぴったりの唄だろう。私はきっと、この子の涙を止める為にこの唄を思い出したのだ。
女は再び旋律を奏で始める。そう、それは先ほどの歌詞の思い出せない唄に乗せる詩であった。
お月さんいくつ、十三、七つ まだ年ゃ若いね
あの子を産んで、この子を産んで 誰に抱かしょ
お万に抱かしょ、お万どこへ行った
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