第二夜 影法師

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 とうとう、堪忍袋の緒が切れた。 「だぁあああああああああっ! 何なんだよあんたはさっきから! 気絶している俺をぶったり、立ち去ろうとする俺に正拳ぶち込んだり! 普通じゃないだろ、絶対おかしいだろ!?  あんた何がしたいんだよ、わけわかんねぇよ!!」 「あー五月蠅い五月蠅い。今はそんなことはどうだっていいんだよ。お前は私の質問に迅速かつ簡潔に答えればいいんだ。わかったか阿呆」 「あ……っ!? てめぇもう……!」  許さねぇ、と叫ぼうとした瞬間だった。  突然、女は鼻先が触れ合うかと思うほど近くまで俺に顔を寄せて、先ほどとは別人のように低い声でもう一度言った。 「、どうなんだ」  こちらを睨みつけるその瞳は、嘘は決して許さないとばかりの強烈な威圧感を放っており、高ぶっていた筈の俺の意識を急速に沈静化させる。  お陰で、ようやく冷静になって思考を回すことができた。そして、俺はある一つの事実に気づく。 つい先ほどまで俺を惑わせていた、視界に映る光景がずれていく感覚が消え去っているのだ。今この両目は、眼前で仁王立ちしている正体不明の黒ずくめの女を注視し、はっきりと認識することができていた。
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