第二夜 影法師

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 帰ってこれる保証はない。死を嫌悪しない。心が壊れている。  まるで自分の心の奥底まで見透かされたような感覚に陥る。  突如意味深なことを語りだした女に呆気にとられ呆然としていると、当の本人はこちらの様子などお構いなしとばかりに破顔して言った。 「お前よく見ると結構可愛い顔してるから、笑った方がモテるぞ」 「なっ……!?」 「堅物君はこれだからダメなんだ。少しは女遊びにでも興じて人生楽しめよ、じゃあな」  完全に思考が置いてけぼり状態となった俺にとどめの一言を打ち込み、女は愉快そうに立ち去っていく。黒いコートを翻して歩いていくその様は颯爽としていて、すれ違った誰もが思わず振り返ってしまっている。今のはモデルか芸能人かと、大方そんなつまらない憶測でもしているんだろうが、本人は一切気にした様子もなく鼻歌まで奏でながら――――その周囲から浮いた後ろ姿は、あっという間に小さくなってしまった。  ……というか冷静に考えて、俺が放心している時間が長すぎただけかもしれない。  はっとして、慌ててその後を追おうとするが――――
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