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「……もういねぇ」
その目立ちすぎる黒いシルエットは、いつの間にやら消え去ってしまっていた。
無駄に長い脚のせいか、その歩幅も尋常ではなかったらしい。今更全力で追いかける気にも起きず、最悪なことに騒ぎすぎて疲労が尋常ではない有様だった。あの女の正体は気になるが、残念ながら諦めるしかないと割り切ることにする。
緊張感に欠ける出会いと別れだったが、お陰で昨夜とはまた別の意味で夢心地だ。
「何なんだよ、もう……」
思いがけず振り回されてしまい、独り言ちる俺にはもはや登校する意志など残されていない。
何より、痛いほどに突き刺さってくる周囲の視線から一刻も早く逃れたかった。まあ、あんな目立つ女と喧しく言い争った挙句、正拳突きまで喰らえばこうなるのも無理はないだろうが。
とぼとぼと逃げるように自宅への道を歩き始める。
ずいぶん長い間意識を失っていたようだが、そんなことはどうでもいい。今はとにかく、ただただ泥のように眠りたかった。
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