44人が本棚に入れています
本棚に追加
――――そのあまりにも衝撃的な出来事から、数時間が経過して。
少しばかり休息を取り、精神的にも安定を取り戻しつつあった俺は、自身の失言を心の底から呪っていた。
「なぁ、俺……昨日幽霊見たんだけどさ」
「女? 男?」
「……女」
「はぁ? 馬鹿じゃねぇの」
間髪入れずにそう返してきた犬飼は、目を丸くして俺の顔を凝視してくる。
しまった、と思った時には既に遅かった。何となく、こいつになら軽く相談しても良いかと考えてしまったのが運の尽きだと、激しく後悔する。
案の定仰々しく芝居がかった表情を浮かべた犬飼は、大げさに首を横に振って鬱陶しいまでにわざとらしいリアクションを取る。
「……何、どうした秋山。熱でもあるのか、気味が悪いぞ。どこまでも暗くて陰気でつまらん人生観を持っているせいで、とうとう現実から目を背けたくなっちまったのか?
妄想ランデブーか?」
「いや、そういうことじゃ」
「俺は悲しいよ。確かにお前は現実に目を向けたがらない可哀そうな奴だったが、まさか欲求不満が祟って幻覚まで見ちまうとはよぉ。
こっちに帰って来いよ秋山、今ならまだ間に合う! 現実にだって可愛い女の子は一杯いるぜ? 妄想の中に逃げるのは早いだろうよ、そうだもうこの際中原でも良いじゃねぇ――――へぶぃッ」
最初のコメントを投稿しよう!