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ただひたすらに生のみを願う人々の姿であった。
全身を膿疱に侵されながら、鉄の雨に貫かれて血煙を吹き出しながら、業火に身を焼かれながら……彼らは僅かな希望へと縋るように手を伸ばす。その激情全てが、この私に向けられたものだ。
ある者は救済を懇願し、ある者は特別であることの責任を果たせと呪詛を吐き、ある者は絶望のあまり現実から目を逸らして、そしてある者は祟りを鎮めるための人柱を求めた。
彼らは理解しているのだろう、この伏月で祟り神・黒百合から人々を救うことができるのは、『百合姫』だけなのだと。勝手な話だと、素直にそう思った。確かに彼らは被害者かもしれないが、そも彼らが尸や自らの怨嗟に抗うことのできる強い心の持ち主だったなら、この地はここまで穢れることは無かったかもしれないのに。蓮華も、ただの人のままでいられたかもしれないのに。
私は、彼らのことが好きだったのに。
だから――――もうこれ以上こんな光景は見たくない、見たくなかったのに……苦しみ悶える人々の中に見知った人影を見つけた視線は、釘付けとなりそこから僅かたりとも逸らせない。
「父、様……」
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