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“おかーさん”
「なあ、“おかーさん”ってだあれ?」
「………は?」
「おとーさんと“おかーさん”が結婚してウチがおるんやろ?なあ、“おかーさん”ってだあれ?」
「誰かになんか言われたんか」
「うぅん、ちがう」
誰に似たのか、まっすぐな目。
なんて答えるんが正解やろか…
「ただね、」
「…おん?」
「おとーさん、いっつも“おかーさん”じゃないひとの話、楽しそうにしとるから」
……………そういうことか。
俺にとっては、まだ、“おかーさん”じゃない。いや、きっと、これからも“おかーさん”じゃない。
やけど、この子にとっては“おかーさん”。
抱きしめてもらったことも、おしめを変えてもらったことも、乳を飲ませてもらったこともない、ただ血の繋がりのあるひと。ただ、それだけのひと。
「おとーさん?」
台風が近づいているのか、強い風が吹き抜ける。雲の間から陽が出る。彼岸花がゆれる。線香の煙がたちのぼる。蝉の声がさっきよりも大きく聴こえる。まるで、あの日のように。
「ーー、なんか?ーー、よな?」
真っ白なワンピースを着た彼女。
哀しそうで、淋しそうな顔をして立つ彼女。
…………あの顔は、俺が、そうさせてしまったのか
「ありがとね、毎年。ずっと、ずっと見てるから、」
その手を掴みたいのに、体が動かない。
「ま・た・ね」
口パクをし、微笑む彼女。
「…っ」
あの時、俺が追いかけていれば。
もっと早く、気づいていれば。
「……おとーさん?」
「………すまん、」
「“おかーさん”のこと、話したくないん?」
「ちがう、そうじゃないんや、………“おかーさん”はな、」
“彼岸花みたいな人だった”
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