マンネリの朝

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「というわけで十二回目を迎えた肝試し大会ですけれども」 「はーい」  それぞれの人物の胴上にテロップが浮かび上がった。真ん中の男には〈黒縁メガネ〉。左の銀髪の女には〈カナピ〉。右の背の高い男には〈チャン〉。黒縁メガネは、冒頭に薄っぺらな顔のアップを披露した人物であり、そして私自身でもある。カナピの本名は夏菜子であり、チャンはそれがそのまま本名の中国系イギリス人である。 「今回こそはちゃんと怖いんでしょうねぇ?」 「ハ・ハ・ハ、チャンさん、あなた前回の絶叫を忘れたんですか? 再生V流すよ」 「え、なんですかそれ?」 〈場面転換〉  薄暗いなか黒いニット帽をかぶった男が古いサッシ戸に手をかけている。丸々と厚着をしていてわかりにくいが、先ほど〈チャン〉と紹介された男である。  鼓膜に傷がつきそうな音とともに戸が開いて、チャンはスレート屋根の半分崩れた小屋に侵入した。カメラの視点もその背中を追う。懐中電灯の光芒に沿ってほこりがプランクトンのようにゆらめき、海の底へたどり着いたようだ。  物置らしい部屋には無数のパイプ椅子が並んでいて、その中の一つに白い物体が鎮座している。チャンがそちらに懐中電灯を向けたとき、海水はゆらぎ、プランクトンが舞い、白い物体が身じろぎをした――かのように見えた。  かすれた小さな叫び声と、柔らかいなにかが硬いなにかにぶつかる音。カメラが振り向くと山道を猛ダッシュで駆け戻っていくチャンの後ろ姿が映った。  懐中電灯に刹那照らされる白樺の林は、葉を落としてむなしく白骨化している。そこに〈チャン、ガチでびびる〉という赤い太字のテロップ。
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