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男女三人が背を向けて、闇の中を歩いている。草木を踏みしめる音は湿っていて、筋ばった肉を大勢で咀嚼するようでもある。
「右側が池になっております」
「なあんにも見えないね」
黒縁メガネとチャンが異様にのんびりと会話をしている。このときの自分の心情を思い返してみる。たしか、二人を騙していることに緊張し、本当の心霊スポットが近づいていることに緊張していた。いわば氷の上を歩いていた。急げば、きっと言葉が上すべりして転倒する。ゆっくり話すことしかできないのだった。チャンは私の心情を察して、調子を合わせてくれたのだろうか。
「あれ、なにー?」
ずっと黙っていたカナピが急に声を発したが、いくらか怒っているような口調だった。すでに森を抜けていて、ニ~三の街灯が遠く星のように浮かび、遠景はやわらかな夜空に溶けていた。足下の細かな砂利道は植え込みに縁どられ、遠くの闇より懐中電灯に照らされる木陰のほうが冷たく乾いている。右の植え込みの向こう、カナピがさした指の先には街灯が一つまたたいていて、その横にはコンクリート製の小箱といった風情の建物があった。
「トイレ」「だねー、寄ってく?」
チャンと黒縁メガネのテンションはくたくたの毛布を湯にひたすようだったが、カナピの声には骨が宿り、節々はぎこちなくとがっていた。
「やだ、あそこの光、青すぎる。気持ち悪い。やだ」
「は?」「青いかな」
そこでテロップ、〈この女、安定の鋭さ……!〉。
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