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まさに意識の幕が降りる直前、スマートフォンが震えだした。電話の着信だった。こんな時間に? あまりに唐突で場違いな鳴動だったので、私は熱いものを触ったときのように反射的に通話ボタンを押してしまった。
「おっ?」
原口だった。私は着信の画面に表示される名前すら確認することなく電話に出ていたた。応答があまりに早かったせいか、原口は服を着る前の裸のままの声を出した。夏菜子は隣にいないようだ。
「いま何時だよ」
「すまん、いや、まずいんだ。なんというか、やばくて」
「夏菜子と別れたか?」
「そんなんじゃないんだ。いや、それもそうなるかも」
「チャンと修羅場になったとか」
「いや女関連じゃなくて、その、炎上しちゃったんだよ」
「炎上……?」
聞き慣れない単語が受話器から飛び出して、私の頭をパンとはたいた。
「あの動画関連さ。こないだテレビで紹介された海から化け物出てくる動画。あれ、コメント欄が荒れてたの気づいてなかったか?」
「最近見てなかった」
私の返答を聞いて、彼は深いため息をついた。どうやら、原口の口からは絶望、諦め、アルコールなど、濃厚な口臭が発せられたらしい。受話器越しでさえ、かすかな不安がにおってきた。
「あの動画、もともとお前のオリジナルじゃないだろ、あれだけ」
「そうだな、コピー動画だな」
私の心臓が首をもたげて立ち上がる。
「この動画パクリじゃん、って何人か動画のコメント欄で騒いでたんだ。テレビに紹介されて以来さ」
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