フレイミングナイト

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 原口はなぜ、自分のコメントを消したのか。そして、なぜ炎上してしまったのか。それは彼が致命的なミスを犯したからだった。 「コメントさ、全部チャンネル管理者のアカウントで書き込んじゃったんだ」  みぞおちで巨大な鈍痛が弾けて、臓腑をえぐった。チャンネル管理者、つまり私が違法アップロードを開き直っただけでなく、逆ギレして汚い言葉で批判者たちを罵ったということになる。自分の知らないところで、もう一人の自分が他人を殴り、痛めつけたのだ。  私自身はその事実に感電して、息継ぎもできなかった。揺さぶられたのは心なのに、こんなにも痛みを感じるなんて。ある種、感動にも近い苦しみが全身をつらぬいた。 「なんで」  まるで命乞いのような私の問いかけだった。 「本当にすまん。まちがった。まちがっただけなんだ」  原口は、新規アカウント、いわゆる捨てアカで書き込んでいたつもりだった。しかし、いつの間にか、アカウントが入れ替わっていたと言う。おそらく、酩酊のせいもあるだろう。アカウントが複数ある場合、ほんの数ミリのマウス操作で切り替えることが可能であり、ミスが発生しやすいのは事実だ。  炎上するのは当然だった。チャンネルの動画には私とチャンと夏菜子の顔が出ている。個人情報を特定され、嫌がらせが押し寄せてもおかしくはない。女性である夏菜子は特に危険にさらされる。 「本気でまずくないか」  私が個人特定のリスクを言うと、原口は沈黙した。
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