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「チャンネル、閉鎖するか」
私は、ほとんど抵抗なく最終手段を提示した。口に出すと、自分が動画作りにすでに飽きていたことを改めて自覚した。チャンネルをやめる潮時なのだろう。しかし、火災現場から逃げ出すだけで解決する問題なのだろうか。
「やっぱり、閉鎖しちゃうか」
絞り出すような原口の声は、ねっとりとした未練と後悔にまみれていた。今まで脳を搾り汗にぬれながら動画へを編集してきた分、チャンネルへの愛着は彼のほうが強いのかもしれない。
「とにかく、どのくらい炎上しているのか確認してから決める」
「……わかった」
原口との通話を切ったあと、エアコンを切って耳をすませた。何かが自宅に侵入してきそうで恐ろしかったからだ。寝間着の上に、持っている服の中でもっとも厚手のコートを羽織り、毛糸の靴下を履いた。それでも、とがった憎しみが私の体をいとも簡単に切り裂くように思われた。おそらく、今もなお、私のチャンネルは燃え続けている。すぐに閉鎖したとしても、燃えさかる炎は私たちの日常に延焼し、平穏を焼き払っていくだろう。
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