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レイニーデイ
大学のキャンパスは、コミュニティセンターというミョウバンの結晶で生成されたような危ういガラスの建物を中心点として、同心円状に道と建物が広がっていく。当のセンターは、極端に広い半地下のイベントスペースに囲まれていて、水濠に浮かぶ中世の城のような特異な構造をしていた。
イベントスペースはサークルの活動場所や学生たちの待ち合わせ場所として機能しているのだが、私たちはこの広場の隅にあるトイレの横の窪みに、棲み家を追われた害虫のように人目を忍んで集まったのだった。
雨が降っていた。トイレ横にはぶ厚いコンクリートがひさしのように張り出して、雨を防いでくれた。また、たっぷりと潤った夏の雨は、白い遮光カーテンとなって私たちと外界とを隔絶してくれた。
今朝、原口は力の抜けた右手にストラップを引っ掛けて、ビデオカメラを振り子のように揺らしながら現れた。目の下には暗く深い谷が刻まれていて、昨夜からの心労を見事に表現していた。歩く枯れ木のような原口を見たとき、私は鏡を見ている気分になった。
昨夜、チャンとの通話を切ったあと、度数の強いチューハイを冷蔵庫から出して、酔いを回しながら炎上するコメント欄を見た。
あちこちに言葉のナイフやらナタやらが撃ち込まれ、私の動画チャンネルは立っているのがやっとという態だった。まともに読むと鈍く不衛生な刃が臓腑をえぐるので、薄く目を開いて、夏菜子が出ている動画だけを非公開にしていった。
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