レイニーデイ

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 私一人で動画を作っていた頃から時間が経ち、原口という頂点が一つ増え、夏菜子、チャンが加わって多角形ができた。動画を作るという行為に魅力を感じることはもうないが、他人と向き合って物事を成していく作業は、何度経験しても冷たい刺激があった。誰かが意見を述べると、脳の血管に一筋の冷水が流れ、さらに意見が加わるともう一筋流れる。やがて、頭の中に複雑な幾何学模様が描かれると、私のノートには一つの物語が完成しているのだ。少し、空腹を感じてきた。  原口が、背負っていたケースから三脚を取り出して、ビデオカメラをセットする。チャンと私がレンズの前に一列に並ぶ。今日はいつもと違って、背景は物言わぬコンクリートだった。夜のように不安や怖れは闇に溶けておらず、廃墟のように声や視線を吸い込む空間もない。いつも私たちの動画に現れては消える運動体のようなものは、予感すらない。 「三、ニ……」  原口がカウントを響かせる。彼の声は彼の声でしかなく、無機質な壁の前に立つ私たちは私たちでしかなかった。非現実を撮ろうともがいてきた私にとって、人間しか映らない動画が一体どんな内容になるのか予測もつかなかった。 「こんにちは、黒メガネです。今回は肝試し企画ではありません。みなさんにお伝えしなければならないことがあります」  私は胸をそらしてカメラのレンズを俯瞰した。チャンは私の右隣で手を後ろに組んでうつむいている。台本に沿って、私の口は自動的に動き始めた。
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