は?覚えてないの?

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「ほんっと、ごめん!」  土下座しそうな勢いで謝っている。 「そんなに謝られても」  複雑な気持ちになるよ。 「全然覚えてないなんて……」 「いいよ、もう」  話を切り上げ、出社する準備をする。 「綾は?今日も……家にいるの?」  なぜか謹慎という言葉を使えなかった。 「うん。それも話したんだね?」 「そこから覚えてないの?」 「全く」 「お酒の力は偉大だね」  辛いことは忘れたい。その事自体が無くなるわけじゃないけれど。 「じゃあさぁ、今夜、やり直そう!」 「は?何を?」 「うちらの初夜」 「は?…何で?」 「だって、私だけ覚えてないなんて嫌だし」 「いや、いいんじゃない?私も忘れるからさ」  否、きっと私は忘れない。忘れたくない。  思い出すと恥ずかしいけれどーー朝起きたら綾とどんな顔で話せばいいのか悩んでいた程にーー綾が覚えていなくてホッとしたんだから。 「忘れたい程、良くなかった?」  本気で不安そうだ。 「いや、そんなことは...…ないよ。ちゃんと...…大丈夫だったよ」  朝から何言ってんだ、私は。 「だったら」 「そういうのは、いついつします!とか宣言するものじゃないでしょ?雰囲気とかあるじゃん」  昨夜もそういう雰囲気はなかったけれど。 「あぁ、そっか。分かった」  ほんとに分かったんだろうか? 「じゃ、行ってくるね」 「ん、行ってらっしゃ〜い」  笑顔で見送られたら、ふと昨夜のことを思い出し恥ずかしくなったけれど、全然嫌じゃなく、少しニヤついてしまった。
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