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娘は僕を見下ろしている。娘の顔には左目がない。何度も刃物で切り裂かれたような傷が碁盤の目のようにつけられている。
「もうこんな体、こんな姿じゃ生きていけないし、どのみち、もう死ぬと思うの・・・」
「おまえが母さんと弟を殺したんだよ。もうおまえも一緒に死ねよ」
娘は左太ももに刺さった包丁を引き抜いた。ビチャビチャと血が垂れるが、僕が顔を刺されたときのような血の吹き出し方はしていない。
おそらくは娘にはもう残り時間がないのだろう。
狙いの定まらない凶器が、ゆっくりと僕の左手を携帯電話ごと貫いた。
娘は包丁が僕の体を刺し貫くのを確認すると、ニタリと口元を吊り上げ、それきり動かなくなった。
男が子供部屋の扉を蹴破った。
男は包丁をボストンバッグから取り出し、ゆっくりとこちらに近寄ってきた。
僕は声をあげたが、悲鳴にはならないほど、か細い声だった。
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