娘の話

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自分が何をしたのかを考えている。 誰かに恨まれるような覚えなどない。 だが僕の目の前には妻と娘と息子の遺体があるはずだ。 彼らには無数の刺し傷があり、相当な怨嗟を抱えた犯人がいることがうかがえた。 僕は頭を抱えた。妻も娘も息子も自分のすべてだった。 家族と住むための一戸建ても買った。 だが今、そのすべてが失われようとしている。アキレス腱を切られ、口を包丁によって横に引き裂かれた僕の顔では もうどこかで仕事をすることもできない。唯一残った両目は生きていた頃の家族と、死んでしまった家族の両方を覚えている。 今、この一戸建ては建物内からの出火によりもう脱出は不可能だ。 僕は死ぬのだろう。死ぬ間際に家族を殺され、家を焼かれ、僕自身、口を引き裂かれた痛みで悲鳴を上げることもできないまま、焼き殺される。 僕は何をしたのだろうか?何をしたのだろうか? まったく思い浮かばない。理解できない。 雨戸を閉められ、外からは室内のことはうかがい知れないはずだ。携帯電話も固定電話もパソコンに至るまですべて破壊・回収された。
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