娘の話

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言い方が悪かったかな。下の人間が負うべき責任は下の人間が負えばいい。僕は定年まで勤め上げればいい。どちらにせよこの現場の人間だって数年後には異動でほとんどがいなくなっているのだから、文句を言われる筋合いもない。 帰りの電車を待つ間、缶ビールを買い、一息に喉に流し込んだ。1日働いた自分へのごほうびだ。 中学生ぐらいの子供達が数人ほど集まって、ホームで騒いでいる。 酒に酔ったフリをして、子供達に世の道理を説いてやった。無口になり黙り込んだ子供達を見て、愉快な気持ちになる。そうだよ、死んだ目でぼくをみろ。僕は他人を屈服させるのが好きなのだと実感した。 駅に電車が来た。僕は電車に乗る。子供達は電車には乗らないようだ 扉が閉まり、動き出す電車のドア越しに、「あいつ、あたまおかしいな」と子供の一人が言っているのが聞こえた。 僕は不快になった。 帰宅すると、二階の子供部屋からエレキギターの鳴る音が聞こえた。僕は階段を駆け上がると、子供部屋の扉を叩き、楽器を弾くのをやめるよう促した。ギターの音が止まった。息子は扉を開け、僕の顔を睨み付けると、再び何も言わずに扉を閉めた。
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