娘の話

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息子は以前、勝手に部屋の物を処分した事に怒っているのだろう。大きな音の出る楽器はこの家には不要なのだ。 わかれよそのくらい。 それ以降、妻とも息子とも口を聞いていない。社内ではいびりたおしていた社員が精神の不調で退職した。いや、病院からの診断書を握りつぶしてやった。上場企業とはいえ、我々も不都合になることは握りつぶさなければならないのだ。社会や企業のルールなんだよ。潰れた人間や負け犬が悪い。それだけのことだ。 万事順調に進んでいる。僕はきっと社会のルール通り、何一つ犯罪もキャリアも汚さず勝ち組を維持している。きっと金のある老後を勝ち取れるだろう。 僕は負け組とはちがうのだ。定年まであと数年。持ちこたえれば僕の勝ちだ。 ーーー4ーーー 帰宅すると、妻の腹部に包丁が刺さっていた。 幾度か刺されているのだろうか。グズグズに引き裂かれた腹部から内臓のようなものがこぼれだしている。 死に瀕しているのか。身動き一つできずにヒクヒクと痙攣している。 妻の生気のない色の抜け落ちた顔がこちらを向く。お前のせいでこんな目にあっているのだ。 そんな顔をしている。
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