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「ねぇ、覚えてる?」
寄り添ってくる小さな彼女の髪の毛は少し湿っていた。先程まで姿が見えないとは思っていたがまた水浴びに行っていたとは…。
「…なんのこと?」
また体を冷やして体調を崩されても困るから、僕はしぶしぶ彼女の身の丈を優に越す両翼を広げて彼女をう抱くように包み込んだ。
「ひゃぁ」とくすぐったそうに身じろぐ彼女はいつ僕の両翼から滑り落ちるか分からなくて支えずらい…。
「私達が人間だった頃のこと!」
彼女はキラキラと期待に満ちた表情で見上げてくるが、何回目かも分からないこの話題についてまた話が始まるのかと考えると僕は憂鬱な気持ちになる。よく同じ話をして飽きないものだ。
「あ、今きっとめんどくさそうな表情してるでしょう」
「よく分かったな、当たりだよ」
「でも、今日の話はいつもの話と違うんだから」
「ふふん!」と胸を張る彼女はいつになく自信に満ちているが僕は逆に不安な気持ちで一杯になる。
「次の目的地が向こうの山の北の村らしくてね、私達が使った3本杉の東の裏道使いたいんだって!それで女王様が私達に話を聞きたいらしくてー」
「うん、じゃあ伝えておくよ」
「ちょっと!そこで打ち切らないでよ!もっと話を広げようよ!」
僕が彼女の話を食い気味に遮ったせいで彼女は頬を膨らませて必死に今の自分の感情をアピールしてくる。
「女王様を待たせるわけにはいかないだろう」
流石にその言葉に反論できるほどの理由は思いつかなかったようで彼女は不満そうではあるが大人しくなる。
彼女を翼から降ろしちゃんと体を拭いておくように言いつけてから女王様のところへ向かおうとすると
「もー今日こそいっぱいお話させれると思ったのに!一緒に遊んでくれる約束もまだだよね!」
と最後の抵抗のつもりか叫び声が聞こえる。
しかし、それに一々振り返る必要性も感じなかったので僕は翼を広げ、まっすぐと大空に舞い上がる。
「大丈夫、この醜い世界が滅んだときにはいくらでも構ってやるさ。」
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