プロローグ

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プロローグ

 インドネシア共和国は、赤道をまたぎ点在する1万3千以上の島々によって構成されている。  その一つであるルピス島は、近年開発が進んだリゾートアイランドだ。原住民のいない小さな無人島だったが、米国資本の企業が進出してきて、土地のほとんどの使用権を買い取った。  ビーチを目の前にした場所には高級ホテルが建ち並び、そのまわりにショッピングモールやカジノ、映画館などを含むエンターテイメント・パークが広がっている。  近隣の島に住む原住民、中でも特に古来からの神を崇拝する宗教団体等から、この開発については大反対運動が起こった。だが、米国企業から多額の献金を得たインドネシア政府は、警察のみならず軍まで投入して押さえ込んでいた。  そんな(いわ)く付きのリゾート地ではあるが、素晴らしい自然と高級エンターテイメント施設の数々の魅力は大きく、世界中からセレブ達が訪れている。  ただ、インドネシアのほとんどの地域は、インフラの整備が他の先進国に比べて遅れている。このルピス島でも、特に上下の水道設備はなんとか体裁だけでも取り繕うとした感が否めない。  もちろん高級ホテルなどで不備があると大問題なので、稼働については最新のシステムが構築されている。  しかし、貯水管理は手薄だった。ホテルやエンターテイメント施設へ供給するためにいくつかの貯水タンクがあるが、その内一つでも手中に収めれば、水道を通じて何でも送り込むことができる。つまり……。  大規模テロが可能だ――。  「アニキ、準備OKか?」  キース・スレーターは、高級ホテルを見下ろす場所に設置された貯水タンクを見ながら訊いた。  「ああ、今回は簡単だったな。あっけない。もっとスリルを楽しみたかったが……」  弟の質問に応える、兄のマット・スレーター。  貯水タンクには、既に彼等が運び込んできた別のタンクが横づけされ、接合してある。ポンプを取り付けた。マットの手にあるスマホで彼が制作したアプリを作動させれば、貯水タンクに特殊な薬剤が流し込まれるとともに水栓も開かれ、そのままホテルやエンターテイメント施設へと流れ込んでいく。  そして、燃える――。
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