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どうする? と目で夏美を見る。
どうぞ、と彼女が手で合図した。
わかったよ……。
鷹西はゆっくり男に歩み寄ると、タイミングを見て男の手首を蹴りナイフを飛ばした。
唖然とする男の前に素早く踏み込んでいくと、右のアッパーを顎に見舞う。
男の身体が垂直に飛び上がったかと思うと、ぐしゃりと崩れ落ちた。すでに意識は飛んでいる。
あっという間に、5人の強盗犯はその場にゴミのように散らばった。
「うまくいきましたね」
夏美が嬉しそうな顔で近づいてきた。
「まったく……。ヒヤヒヤしたぞ。勝手に人質の代わりになったなんて聞いたら、班長怒るぞ、きっと」
夏美の顔がサッと青ざめた。徳田班の長、徳田正隆は鬼警部と呼ばれる厳しい男だった。指示を待たずに単独捜査に走りがちな夏美や鷹西は、よく怒鳴られている。
「だ、だって、早く助けてあげないと、って思ったから……。鷹西さん、最初から私が人質だったということにしてくれませんか?」
「無理だよ。どんだけ目撃者がいると思ってるんだ?」
「ですよねぇ……」
はあ、と溜息をつく夏美。
そんな彼女の元に、小さな影が駆け寄ってきた。さっきの女の子だ。母親も後からついてくる。
「お姉ちゃん、ありがとう」
すでに泣き止んでいた少女が、夏美を見上げながら言う。
「本当に、ありがとうございました」
母親が深々と頭を下げた。
「いえ。これが仕事ですから」照れくさそうに応える夏美。そして少女を抱き上げ話しかけた。「怖かったでしょ? よく頑張ったね」
その光景を見て、やれやれと思いながらも鷹西は微笑む。
少女と夏美の笑顔が、とても輝いていた。
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