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「お待ちしていました」
一人が英語で言う。マットはそれに手をあげて応え「日本語でいい」と言った。
「え? しかし……」
「俺たちは日本語も喋れるよ。何しろ、これからお得意様になるかもしれない国の言葉だからな」
フッと笑いながらマットが言い、キースと目配せし合った。
組織に所属し、いろいろな訓練を受ける合間に、先進主要国の公用語はほぼ覚えた。依頼を受けて潜伏し、活動を行うにためには言葉は欠かせないツールであるから当然だ。
活動とは、言うまでもなく破壊活動――。
バンの後部座席に2人が乗り込むと、スムーズに発車された。
「実は……」と言って助手席の男が振り返る。「本番の前にいくつかやっていただきたいことがあります。これは、組織の方にも通してありますが」
「何だい? 燃やす場所を増やして欲しいとでも言うのか?」
マットが訊くと、隣でキースが嬉しそうに笑った。
「いえ、始末してもらいたい人間が数名います」
「なんだ、殺しか。暗殺っていうのは面倒くさいな。どうせ殺すなら、まとめてやってしまいたい」
肩を竦めながら言うマット。
「いいじゃないか」キースはまだ嬉しそうだ。「殺しの方は俺がやるよ。本番の準備はアニキ、頼む」
「あまり遊ぶなよ。おまえは余計なことをしすぎる」
「大丈夫。この平和な日本で、俺たちのことを止められる奴はいないさ」
キースがそう言いながら、窓の外を眺めた。
「確かにな……」とマットも視線を向ける。
横浜の街並みが、静かに流れていった。
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