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SCENE3 洋風居酒屋「南風」
「さすがにたくさん人が集まってますね……」
夏美が目を丸くして、貸し切りパーティの会場となっている店内を見渡した。
ここは神奈川県警察本部から歩いて来られる距離にある、ちょっと洒落た居酒屋だ。いわゆる「無国籍料理」の店で「南風」という店名からもわかるように、南国を思わせるような料理が多い。店内の装飾も、海や南の島をモチーフにしている。
「立木さんは人脈広いからなぁ。さすがだよ」
そう応えながら、鷹西は夏美をチラッと見る。今日は徳田班の古参刑事である立木浩三のためのパーティということもあり、仕事の後にフォーマルな服装に着替えていた。ピンクの袖付きロングプリーツドレスだ。「捜査一課の可憐な花」という異名が改めて思い出され、ついつい目を奪われそうになる。
か、可愛い……。
もちろん、ひねくれ者の鷹西はそんな内心は表に出さなかった。馬子にも衣装だな、と言ってさっき肘鉄を食らったばかりだ。
「よう、お二人さん」
声をかけてきたのは、鷹西が所轄勤務時代の同僚、城木良幸だった。イケメンでチャラいヤツだが、こういう場ではしっかりとキメてくる。
「うわーっ、夏美ちゃん、今日は一段と可愛いね。ピンクがよく似合うよ。本当に花のようだ。いや、花を纏う妖精かな?」
「い、いえ、そんな……」
相変わらず歯の浮いたようなセリフを言う城木。夏美は本気で恥ずかしそうにしている。
「夏美に言うのはいいけどさぁ……」城木の隣りには夏川絵里がいた。横目で城木を睨む。「誰にでもそういうことを言っていると、わかってるわよね?」
彼女は交通機動隊所属の白バイ隊員だ。黒のレース袖のIラインドレスがまたよく似合う。女子寮で夏美の先輩であり、仲も良かった。そして、城木とつきあっていることは今や公然の秘密だ。
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