SCENE3 洋風居酒屋「南風」

2/4

119人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
 「わ、わかってるって。いや、誰にでもなんて言わないよ……」  慌てる城木。そんな彼の向こうから新たに男性が2人、姿を見せた。  「どうしたの、城木君? なんか冷や汗かいてるみたいだけど……」  ニヤニヤしながらそう訪ねるのは、三ツ谷徹。神奈川県警刑事部科学捜査研究所に所属する警察官だ。情報処理能力に長け、科学的知識も豊富で、これまで多くの刑事達から頼られてきた。優秀なのだが見た目も中身も少年のようで、今も小柄な身体に正装という姿を見ると、入学式か卒業式という言葉を思い出しそうになる。  「ちょっと寒気がしてさ」  肩を竦めながら、冗談めかして城木が言う。  三ツ谷と一緒にやってきた長瀬雄一が、いたずらっぽく笑いながらのぞき込んだ。そして……。  「何か処方しましょうか?」  彼は三ツ谷の同僚だが、化学部門の専門家で、薬学について豊富な知識を持っている。いつもは白衣を着ているので、スーツ姿が新鮮に見えた。長身の好青年なのでよく似合っている。  「い、いや……」  「軽口を慎むような薬があればいいんだけどな。あと、チャラチャラした態度が直る薬も欲しい。そうすれば夏川さんも安心だろう?」  口ごもる城木を制して鷹西がそう言うと、絵里が「そうなんだけどねぇ……」と大げさに頷いた。  そんな様子を見て、夏美が「フフッ」と微笑んでいる。その横顔に、鷹西の胸がまた高鳴った。  いかん、いかん……。今日は立木さんのための催しなんだから、しっかりしないと……。  主催は神奈川県警の有志で、鷹西もその一人に名を連ねている。会が滞りなく進むように尽力しなければならない。気を取り直して会場を再度見まわした。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!

119人が本棚に入れています
本棚に追加