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「わ、わかってるって。いや、誰にでもなんて言わないよ……」
慌てる城木。そんな彼の向こうから新たに男性が2人、姿を見せた。
「どうしたの、城木君? なんか冷や汗かいてるみたいだけど……」
ニヤニヤしながらそう訪ねるのは、三ツ谷徹。神奈川県警刑事部科学捜査研究所に所属する警察官だ。情報処理能力に長け、科学的知識も豊富で、これまで多くの刑事達から頼られてきた。優秀なのだが見た目も中身も少年のようで、今も小柄な身体に正装という姿を見ると、入学式か卒業式という言葉を思い出しそうになる。
「ちょっと寒気がしてさ」
肩を竦めながら、冗談めかして城木が言う。
三ツ谷と一緒にやってきた長瀬雄一が、いたずらっぽく笑いながらのぞき込んだ。そして……。
「何か処方しましょうか?」
彼は三ツ谷の同僚だが、化学部門の専門家で、薬学について豊富な知識を持っている。いつもは白衣を着ているので、スーツ姿が新鮮に見えた。長身の好青年なのでよく似合っている。
「い、いや……」
「軽口を慎むような薬があればいいんだけどな。あと、チャラチャラした態度が直る薬も欲しい。そうすれば夏川さんも安心だろう?」
口ごもる城木を制して鷹西がそう言うと、絵里が「そうなんだけどねぇ……」と大げさに頷いた。
そんな様子を見て、夏美が「フフッ」と微笑んでいる。その横顔に、鷹西の胸がまた高鳴った。
いかん、いかん……。今日は立木さんのための催しなんだから、しっかりしないと……。
主催は神奈川県警の有志で、鷹西もその一人に名を連ねている。会が滞りなく進むように尽力しなければならない。気を取り直して会場を再度見まわした。
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