SCENE3 洋風居酒屋「南風」

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 まだ開会前だが、立食形式のパーティなので人が行き交っている。  可愛いらしい感じの夏美とクールビューティな絵里……魅力的な2人は早くも男達からの視線を集めていた。  「夏美、後で立木さんにお祝いの言葉と花束贈呈があるんでしょ? しっかりね」  絵里にそう言われると、夏美は「緊張しますね」と手を胸に当てながら深呼吸をする。  いつものデニムパンツにTシャツというスタイルを見慣れている鷹西は、どんな仕草をされてもつい息を呑みそうになった。  「おまえ、さっきから夏美ちゃんに見とれてばっかりいるだろ?」  城木が鷹西をつつく。  「な、なに言ってんだ。そんなわけないだろ。こいつ珍しい格好してんなぁ、って見てただけだ」  「……?!」ムッとする夏美。「め、珍しい格好って……。しかも、こいつ、って言いましたね?」  睨みつけられ、鷹西が「いや、その……」と後退る。  「まあまあ」絵里が間に入った。「おめでたいパーティなんだから、喧嘩はなしよ」  「そんな態度ばっかりとってると、いつか見放されるよ」  三ツ谷が耳打ちしてくる。  「大きなお世話だ」  鷹西は肩を竦めてから、前の方で神妙そうな面持ちになっている立木に目を向けた。   今日は立木の65歳の誕生パーティだった。ただの誕生日ではない。警察官としての定年の歳(※※※※)であり、次の3月末をもって、彼は退職する。  今は10月。あと半年を切った。そのため、鷹西や若手刑事達が中心となって、警察官として最後の誕生日を祝う会を催すことにした。  多くの者から是非にと言われ、何事も控えめで還暦祝いも大袈裟なものは辞退したらしい彼も、今回は主役になることを了承した。  鷹西が生まれる前から警察官だった立木。長い年月、神奈川県警管轄下の様々な警察署を渡り歩き、数々の事件と向き合ってきた。その間に築き上げた人脈は驚くほど広く、深い。 ※※※※2021年現在、日本の警察官の定年は60歳となっているが、段階的に65歳まで引き上げることで検討が進められている。
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