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SCENE3 洋風居酒屋「南風」②
立木の挨拶は、自分のことは控えめにして、皆に感謝の言葉を述べる事に重きを置いたものだった。彼の人柄をよく表している。
夏美は緊張しているのが見ていてわかるほどだったが、それでもしっかり挨拶をし、花束贈呈の役をこなしていた。その姿を見て、ついつい微笑ましく感じてしまう鷹西。慌てて緩んだ顔を引き締め直す。
徳田の音頭による乾杯、そして歓談、と楽しい時は流れていく。
夏美や絵里には若い男性陣が次々挨拶に行き、そのたびにビールを注いだりカクテルを渡したりしている。絵里の方は慣れたもので適当に愛想笑いをしながらもあしらっていた。だが、夏美は律儀に対応し、次第に酒量が増えていく。
ふと心配になった。いつも事件を追って走りまわっている。休みは少ない。若いから気づかないかもしれないが、疲れもたまっているだろう。彼女がどの程度飲めるのかわからないが、22歳という年齢だとまだ酒に慣れてはいないだろう。
大丈夫かな、あいつ?
そんな気持ちが顔に出ていたのか、三ツ谷が歩み寄り声をかけてきた。
「心配なら、側に行って独り占めにしちゃえばいいじゃん」
「い、いや、別に……」
口ごもる鷹西。主催者側の1人として全体を見ている必要があるため、夏美だけの相手をする、というわけにはいかない。知らず知らずのうちに、それがもどかしく感じられていた。
ふと見ると、城木や長瀬のところには、若い女性警察官が数名いて談笑している。
城木は時々絵里の方を見て、怒っていないか気にしているようだ。美男美女のカップルも大変だな、と感じた。
長瀬は普段表に出てこないので、このパーティで初めて会った、という女性警察官も多いだろう。どちらかというと体育会系が多い警察官の中で、ああいう知的な好青年は珍しい。もしかしたら、これから人気が出てくるかもしれないな、と思う。
ふと三ツ谷に目を戻すと、どこか寂しそうだった。なるほど、と鷹西は笑う。
「深山君が恋しいだろう?」
「な、何を言っているのかな?」
慌てる三ツ谷。手にしていたグラスを取り落としそうになっている。
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