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「今頃どこにいるんだ?」
「たぶんパリだと思うけど……」
「おっ! やっぱり彼女のスケジュールは把握しているのか?」
「い、いや、違うって……」
深山早苗という女性警察官のことだった。女子寮で夏美の先輩だ。そして、鷹西や三ツ谷とは警察学校の同期。さらに、三ツ谷にとっては憧れの人でもある。
彼女は今、国際刑事警察機構の研修を受けている。日本の警察から何名か、出向というかたちで派遣されることになったのだが、その内の一人だ。
「しかしすごいよな。俺達同期の中で、一番の出世頭だ」
「まあ、彼女は優秀だからね」
誇らしげに応える三ツ谷。
そういう三ツ谷だって優秀なんだがな、と鷹西は思う。様々な情報技術を駆使して捜査に協力している三ツ谷は、そのやり方が違法ギリギリだったり警察組織の常識を越えているため、上層部には疎ましく思われることもある。
何しろ、必要とあらばアメリカの中央情報局やロシアの連邦保安庁とだって対等に渡り合うのだから、危険人物と見なされかねないだろう。
能力がキャリアに反映されないタイプの実力者である三ツ谷だが、本人は上昇志向はあまりない。それより、自分の技術や能力を駆使して犯罪に立ち向かうのが嬉しいらしい。楽しみながら発揮する使命感、というヤツか? いずれにしろ、現場の刑事達にとっては頼れる存在だ。
パーティは滞りなく進んでいった。
最後の立木の挨拶も終わり、司会者が閉会を告げると、徐々に人々が帰っていく。
主催者代表が会計を済ませた後は、鷹西が最後に店内を確認してから出ることになっていた。警察官といえども人間。酔えば……いや、酔わなくとも忘れ物はする。
スマホや財布ならまだましだ。まさかとは思うが、警察手帳や拳銃を忘れた、などということがあったら大問題だ。
広い店内を見まわると、幸い何も忘れられた物はなかった。
だが……。
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