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「ちょっとしたスリルなら、味わえるかもしれないよ。ほら……」
キースが顎で示した方には林がある。今、木々をかき分けるようにして2人の男が飛び出してきた。1人はがっちりしたラガーマンのような体格。もう1人は背が高く引き締まった体つきで鋭さを感じさせる。どちらもインドネシア警察の制服を着ていた。間違いなく警官だ。
「やっと追い詰めたぞ、このテロリストめ」
がっちりした方が言った。必死の形相で、手には銃を持っている。
「武器を捨てて両手を挙げろ」
背の高い方も続けて言う。こちらも銃を構えていた。公用のインドネシア語でなく、英語を使っている。
だが、キースもマットもニヤニヤしているだけで、動かない。
「うーん。スリルと言うには、足りないな」
マットが一旦スマホをしまうと、肩を竦める。
「まあ、仕方ないよ。この島の警察程度じゃ。むしろ、よくここまで来たと褒めてやりたいね。他の警官達のほとんどはさっき始末したのに、怯まずに向かってくるなんて」
キースが応える。こちらの2人も、もちろん英語でやりとりしている。
「ふざけるな。早く手を上げろ」
がっちりした方が叫ぶ。そして銃を更に見せつけるように前に突き出す。
目配せし合うキースとマット。
「だってさ?」
「しょうがないな、じゃあ……」
そう言葉を交わしたかと思うと、キースとマットは左右に素早く飛んだ。
警官達が慌てて銃口を向け直すが、追いつかない。
キースは一旦横へ飛んだ後、身を翻し、がっちりした方の警官の後へまわり込む。
慌てて向き直る警官。だが素早く繰り出されたキースの蹴りを手首に受け、銃を落としてしまう。
更にキースは、後ろ回し蹴りを警官の胸に打ち込み倒す。
少し先では、マットが背の高い警官の手首を掴み、捻り上げていた。
グワッと呻く警官。そして、そちらの警官の手からも、銃がポトリと落ちた。
一旦手を離したマットは、目にもとまらぬほど鋭いパンチを立て続けに繰り出した。
左ジャブ、右ストレート、そして最後に左フック、と教科書通りの攻撃だが、あまりに早いために、警官は対応できずに全て受け、もんどり打って倒れる。
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