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SCENE4 ホテル ベイロワイヤル横浜
横浜港近くにある高級ホテルだけあって、ロビーは上品なソファやテーブルで占められていた。コーヒーの味も格別だ。
青木旬一はその雰囲気に多少気後れしながらも、超小型カメラの準備をした。
先ほど、与党民事党で衆議院議員、政府国際問題研究会の構成員でもある佐伯武史が外へ出て行った。その姿はしっかり画像データとして捉えてある。
彼も青木の取材対象ではあるが、今日はもう一人、おそらく会っていたであろうと思われる人物がターゲットだ。
佐伯がホテルに入ったのは1時間前。その30分前に、ターゲットはホテルに来ていた。そして、まだ出てこない。おそらく時間差で出入りすることで、2人の関係を勘ぐられないようにしているのだ。
彼らが同じ部屋を利用したかどうかは、今は確かめようがない。一流ホテルだけあって、フロントに訊いても教えてはくれないだろう。しかし、後で必ずそうだという証拠を掴む。それは、いくらでもやりようはある。
青木は誰かの声が聞きたくなってスマホを取り出した。とりあえず、ジャーナリスト仲間の一人を呼び出した。
「週刊潮流」という社会派雑誌の編集責任者、峰岸肇だ。飄々としていて食えない男だが、社会の暗部について知識が豊富で、それらを調べているジャーナリスト達多くとネットワークを持っている。青木もその一人と言っていいだろう。
「やあ、青木君か? 確か、大事な取材中じゃあ?」
声を聞いただけであの恰幅の良い姿が思い出され、青木は苦笑する。
「ええ。2人とも姿は確認しました。会談していたという証拠もすぐ掴みますよ。そして、その内容も、必ずあぶり出します」
「そうか。でも気をつけてね。本当に君が掴んだ情報通りなら、大騒ぎになる。慎重に事を進めないと」
「わかってますよ。確証を掴んだら、週刊潮流で扱ってくれるんですよね?」
「もちろん」
「それが聞けて心強いです」
そこまで会話をしたところで、今日のターゲット、佐伯の相手だろうと思われる男がエレベーターから姿を現した。青木は「出てきたんで、じゃあ、また後で」と通話を切る。
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