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山岡友之――警察庁警備局第2警備企画課長、いわゆる警察官僚で、言うまでもなく、警察組織のトップグループを構成するうちの一人だ。
青木は立ち上がると、山岡の後を追う。
彼はホテルの外へ出た。裏へまわり路地の端で立ち止まる。迎えの車が来るのだろう。
青木は思いきって後から声をかけた。
「山岡さんですね、警察庁の。ちょっといいですか?」
怪訝そうな顔つきで睨んでくる山岡。青木は構わず続けた。
「私、フリージャーナリストの青木と言います」
名刺を差し出す。僅かに躊躇した山岡だが、片手で受け取った。マスコミ嫌いだという話は聞いている。それが態度や表情に出ていた。
「すまんが、時間がない。後日、きちんとアポを取ってからにしてくれ」
山岡が言った。努めて感情を抑えている。
「わかってます。ただ、ちょっとだけ伺います。今日は、誰とお会いになっていたんですか?」
「それは言う必要はない」
にべもない応えだ。だが青木は食い下がる。
「与党民事党の佐伯議員でしょう? 先ほど出て行きましたよ」
「佐伯議員も来ていたのかね? それは知らなかった。挨拶でもしておけば良かったな」
このような質問には慣れているのだろう。見事に誤魔化した。
「またまた……。同じ部屋に入っていくのを確認しましたよ」
はったりだ。しかし、微かに山岡の表情が揺らいだ。
「何かの勘違いだろう。曖昧な記事は書かない方がいい」
「勘違いじゃあないと思いますけどね。何を話していたのか、教えていただけませんか?」
「佐伯議員じゃない。知人と会っていただけだ。話していたのも昔話だよ」
「わざわざホテルで、ですか?」
「ああ。お互い忙しいし、落ち着いた時間も場所もなかなか得られないからね」
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