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「君の功績については伝え聞いている」松田が頷いてから言った。「正義感の強さも身体能力の高さも申し分ない。自分は訓練教官というだけでなく、いわゆるスカウト活動もしているんだ。もし興味があるなら、と思って声をかけさせてもらった。もちろん、スカウトと言っても推薦するだけで、実際には訓練や試験を経て選抜されることになるが」
「SATって、女性でも入隊できるんでしたっけ?」
「以前は25歳以下の男性、という制限があったが、今はない。優秀な人材は年齢性別関係なく欲しい」
私が……。
思いもよらない話に、夏美の頭は混乱した。もちろん光栄なことだ。単純に嬉しいという気持ちもある。だが……。
夏美の警察官としての理想像は、父だった。
まだ子供の頃に殉職してしまったので、詳しくは知らない。しかし、母や元同僚から伝え聞いた話では、市井の人々に寄り添い、相談を受けたりしながらその生活を守っていくような刑事だったらしい。
SATは素晴らしい部隊だ。日本という国の治安を守る最先端にいる。そこで働けるなど、光栄なことだろう。
とはいえ、特殊な任務であるのは間違いない。市井の人々により添う、というのとは異なる。
憧れの部隊であり、そこに推薦されるなどこれ以上誇らしいことはない。魅力を感じる気持ちもある。その反面、自分の理想とするところとは違う……。
複雑な心境だった。
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