SCENE6 川崎市内の工業地域付近

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SCENE6 川崎市内の工業地域付近

 24時間稼働している大型の工場があちこちに建ち並び、雲を突くような煙突からは蒸気や煙が時折吹き出している。  その光景は、工場夜景としても注目を浴びていた。  そんな川崎の工業地域を見下ろす高台に、2人の男が立っていた。夜景だけでなく、そろそろ深夜に向かう時間で空には星も見える。  1人は神奈川県警警備部に所属する公安捜査官、高井信忠。険しい表情で懐から写真をとり出した。スーツ姿の男が歩いているスナップショットだ。  高井はそれを、もう一人の男、守岡武に手渡した。  「この男だが、どうだ?」  高井が訊くと、守岡は大きく頷いた。  「間違いありません。こいつはファントム配下の武器商人ですよ。日本ではいっぱしの商社マンを気どっているようですが、俺は中東でこの男が暗躍していたのを知っています」  守岡は戦場カメラマンとして世界中の紛争地帯を渡り歩いてきた男だ。信頼できる。高井は彼から今まで、幾多の情報を得てきた。これで、写真の男を正式に取り調べようと思った。  「それにしても、ファントムの構成員が日本の商社にまで入り込んでいるとはな……」  嘆かわしい、とでも言うように溜息を漏らす高井。  「いや、それどころか、政財界や、それこそ警察内部にまで協力者がいるという噂がありますよ。高井さん、気をつけて下さいね」  心配そうに言う守岡。  確かに、同じ公安警察の中にも、例えば警察庁の警備局には、不正を働く組織や権力者のために暗躍する部署さえあると言われている。同じ警察官として、許せないことだ。そういう所が、ファントムと結びついているという話も聞いたことがあった。これは、由々しき問題でもある。  「しっかり対応していかなければいかんな」  高井がそう言うと、守岡は深刻そうな顔になった。  「戦争やら紛争は、たぶん人間が存在する限りはなくならないと思うんですよ。でも、それを商売にするファントムのような組織は許されない。国際刑事警察機構(インターポール)も本腰を入れてファントム対策を各国に呼びかけるつもりになってます。高井さん、日本の警察にも期待してますよ」
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