SCENE8 横浜市内のとある路地

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SCENE8 横浜市内のとある路地

 そろそろ深夜にさしかかったと言っていい時間だった。  白石忠範は帰宅の途につきながら、先日開かれた立木の誕生日パーティのことを思い出していた。  県警捜査一課の可憐な花と言われる月岡夏美や、クールビューティ・ライダーの異名を持つ夏川絵里も参加していて、とても華やかだった。  立木と会うのも久しぶりであったが、変わらず元気そうで安心した。20歳以上離れている自分の方がくたびれて見えたくらいだ。  立木には、若い頃に捜査方法から刑事としての信条まで、あらゆるものを学ばせてもらった。今、自分は刑事警察ではなく公安捜査官の任に就いているが、警察官としての基本姿勢は同じだと信じていた。それを教えてくれたのも立木だ。  できることなら、またともに仕事をして、いろいろ教えてもらいたいものだと思う。特に、今は……。  現在扱っている事案は非常にデリケートだった。  「ファントム」という世界規模のテロ請負組織が近年台頭しており、その魔の手は先進各国の政財官それぞれの中枢に食い込んでいるとさえ言われている。  この日本も同様で、ファントムに協力していると思われる人物が複数いた。白石や彼が所属する班は、今、その裏付け捜査を行っている。対象となっている者は政治家だけでなく、なんとこの警察組織、それも公安関係の上層部にさえいた。  公安の要職につく者がテロ請負組織に協力するなど、前代未聞だ。当然検挙しなければならないが、表沙汰になれば社会的にも大問題となり、警察組織の威信は瓦解しかねない。  慎重に進めなければ……。  様々なことを思い浮かべながら歩く。人気は少ない。たまに雲間から月の明かりが届くものの夜の闇は深く、不安を呼ぶ。自然と足の進みも早くなっていった。
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