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SCENE10 移動中の車内 夏美 立木
「私が運転します」
夏美は素早く捜査車両の運転席に向かった。立木は自ら運転しようとすることが多いのだ。そうなると、大先輩なだけにこちらが恐縮してしまう。
とりあえず、焼死した4人の事案、それぞれを扱う所轄署をまわって詳細を確認することにした。
「年寄り扱いしないでくれよ」
助手席に座ると、苦笑しながら立木が言った。
「そんなつもりはありません。こういうことは、下っ端に任せてください。私、運転得意だし、好きなんですよ、本当は」
そう応え、エンジンをかける。夏美と組むと、運転を買って出てくれる相手の方が多い。男性の刑事ならば、ほぼ全員がそうだ。1人、鷹西を除いては……。
そういえば、鷹西さんは、今日は疲れたからおまえ運転してくれとか、ジャンケンで決めようとか、遠慮なく言ってくるなぁ……。
夏美としてはそれは全然かまわないし、むしろその方が良いのだが、他の男性刑事はかなり気を遣ってくる。中には、わざわざドアを開けてくれる人までいた。そんなふうだと、夏美の方まで気を遣ってしまう。
なので、最近は鷹西と組むと自然な感じがして、しっくりくるようになっていた。そうなる前は、かなり険悪だったのだが……。
夏美が徳田班に赴任してから、そろそろ1年になる。さすがに捜査一課は厳しく、仕事はハードだ。しかし反面、チヤホヤとまでは言わないまでも、男性陣に気を遣われることが多い。また、明るく前向きな性格なので、女性の先輩達からもかわいがられている。
そんな中、鷹西だけはぶっきらぼうな感じだった。なので自然と、夏美もつっけんどんな対応をしていた。お互いに、やりにくい相手だと感じてもいた。
それが、ともにある事件を担当したことにより、急激に親しくなっていった。今でもケンカはよくするが、信頼できる相手だ。
考えてみると、鷹西を通じて三ツ谷や長瀬、城木とも知り合うことができた。
いろんなことがあったなぁ……。激動の一年、って言っていいかも?
運転しながらふと思い出し、笑みを浮かべる夏美。
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