SCENE10 移動中の車内 夏美 立木

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 松田からSAT入隊の話があったことを思い出す。とても光栄なことだ。  しかし、そこでの任務は通常の警察官とは異なる。  おそらく訓練と研究中心の日常。そして、テロや特殊な犯罪事案に対して出動し、速やかに鎮圧する。それ以外について詳細はわからないが、おそらく今のように街にとけ込み人々に寄り添いながら犯罪に対処する、というのとはかなり違うはずだ。  仮に入隊できたとしても、SATの最前線で活動する期間はそうは長くないだろう。しかし、エリート的な面もあり、除隊後も機動隊のトップやある意味警察組織の上層部に組み入れられることが多いという。普通の刑事に戻ることになるかどうかわからない。  あの話があってから、思い出しては悩んでいた。  「SATを目指してみては、という話が来たそうだね?」  夏美の思いを覚ったのか、立木が訊いてきた。  「はい。驚いちゃいました。こんな私が……」  「いや、君なら充分やっていけると思う。それに、SATが扱う事案にも、例えば女性や子供が人質になったり被害を受ける場合もあるだろう。そんな時、君のような隊員がいると助かるんじゃないか?」  「そうかなぁ……」  首を傾げる夏美。  「迷っているんだね?」  「はい。かなり」  正直に言った。誤魔化しても、立木なら見抜いてしまうだろう。  「私はもうすぐ退職するからいいが、徳田班長も班の連中も皆、君がいなくなると寂しく感じるだろうな。だが、きっと君がそういう場で活躍するなら応援するはずだ」
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