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「詳しい説明は、後でするね。とりあえず行きましょう」
早苗が進んでいく。エレベーターではなく階段と非常階段を交互に使ってから裏手に出て、車に乗り込んだ。後方から周りを警戒するようについてきた、SPと思われる男が運転する。後部座席に早苗と鷹西。
「一応、用心の上にも用心しないと。警察官僚や公安関係者の中にも、ファントムの協力者がいる恐れがあるって言うしね」
「ファントム?」
早苗を見るが、ただ頷いただけだった。これも説明は後、ということだろう。仕方なく窓の外に目をやる。官庁街が流れ去っていく。
しばらく車に揺られた。尾行に気をつけているらしい。スピードを上げたり下げたり、同じ場所を通ったりしているうちに、普通なら10分で着くと思われる辺りに30分かけて来た。
たどり着いたのは、こぢんまりとしたビルだった。そこの駐車場で降り、1階の部屋へ入る。SPらしき男は離れて行った。どこか別の場所で見張るのだろう。
「ここは、国際刑事警察機構の日本支部が極秘に使っている事務所の一つよ」
早苗が端的に説明した。ヒューと軽く口笛を吹く鷹西。
「物々しいね」
「国際刑事警察機構の名目上の日本支部は、今は警察庁内にある。でも、そこを主な活動場所とすると、他から見張られやすいから、今回のような任務の時にはこんな感じで極秘に進めるらしいわ」
「今回のような任務っていうヤツを、これから説明してくれるんだよね?」
「もちろん。まあ、座って」
簡素な応接用ソファーとテーブルがある。鷹西が座ると、早苗がコーヒーをいれてくれた。苦みが心地いい。
現在は単に各国警察間での情報のやりとりを調整することが主な業務となっている国際刑事警察機構だが、今後は更に国境を越えて犯罪に対処する必要性が高まってくる。そのために、国際刑事警察機構所属の捜査官の育成も視野に入れているらしい。早苗は日本からその候補になっている一人だ。
同期として誇らしく思う鷹西。
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