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SCENE1 横浜市内のとあるスーパー
鷹西惣一郎は、子供向けの菓子類がたくさん並べられた棚の片隅に隠れながら、大きく息を吐いた。
くそう、あいつら、あんな小さな子供を人質にとりやがって……。
大きめのスーパーの食料品売り場だった。棚の一番向こう側、食肉用の冷蔵庫がある前で、荒っぽい男達が大型のナイフを手に四方を血走った目で見ている。
1人がまだ5歳くらいの女の子を太い腕で押さえ、喉元にナイフを突きつけていた。
「おらぁ、近づくんじゃねえぞ。この子殺すぞ、いいかっ!」
完全に冷静さを失った男が怒鳴る。女の子の泣き声も大きく響いた。
スーパーのあちこちで悲鳴があがった。客の数が多い。駆けつけてきた警官達はパニックを抑えるのに苦労している。
「やめてっ! その子を放してっ!」
少女の母親と思われる女性が泣き叫んでいる。今にも駆けよろうとしているのだが、それを制服警官が必死に止めていた。
スーパーで荒れ狂っているのは5人。横浜や川崎、時に都内まで出没して強盗を繰り返している連中だった。元々は反グレでその後暴力団に所属したりもしたが、あまりにも荒っぽすぎてそれらからもはみ出してきたような、危険な連中だ。
強盗殺人容疑がかけられ、先ほど所轄署がそのねぐらにガサ入れをしたのだが、逃げられた。緊急配備が敷かれ、たまたま近くを移動していた鷹西と同僚の女性刑事である月岡夏美が、駆けつけたのだ。
あれ? そういえば、夏美はどこへ行った?
振り返って怪訝に感じる。一緒にいたはずの彼女がいない。制服警官が数名緊張した面持ちをしているだけだ。
まさかあいつ……。
ふと、イヤな予感がよぎる。
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