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「はいはい、例の人体自然発火現象についてだったね」
三ッ谷がキーボードを操作し、一番大きなモニターに概要を映し出した。
パソコンや、夏美には何だかわからない妙な機器が雑然としている室内では、身の置き場にも苦労する。長瀬に促されるまま、モニター斜め横のイスに腰をかけた。三ッ谷は反対側に座っている。長瀬は2人とモニターを見下ろすようにして立っていた。
「実はこの4件の焼死について、死体検案書と解剖データをいただいていたんだよね。不審な点がたくさんあるから、調べてみたくて」
何気ない調子で言う三ッ谷。
「データをいただいていたっていうの、許可を得てだったのかどうかは訊かないでおきますね」
「うん。訊かないでね」
ウインクをよこす三ッ谷に、やれやれと苦笑する夏美。担当する事件以外のデータを許可なく利用するのはもちろん職務規程違反だ。しかし、彼は意に介さない。これも、事件を解決するためには様々なやり方を駆使してもいいじゃないか、という彼なりの考えがあるのだろう。悪用するわけではないし、実際にそういう方法で担当外の事件も解決に導いているのだから、とりあえず目を瞑っておくことにした。
「人体自然発火現象って、これまでいわゆるオカルトの範疇でしたよね? 今回のこの4件は、同様のことなんでしょうか? そもそも、これまでの人体発火現象って本当の出来事なのか、私にはそれもわからないです」
夏美が疑問をそのまま口にした。
「うーん」と首を傾げる三ッ谷。「そのあたりについては、長瀬君の方が詳しいんじゃないかな? 医学的な見地も必要だと思うし」
言われて長瀬を見る夏美。彼は少し難しそうな顔をして考え込んでから、口を開く。
「僕も詳しく調べたわけじゃないので概要しか言えませんが、人体自然発火現象がはじめて文献の中に出てきたのは、16世紀だと言われています。デンマークのトーマス・バルソリンという医師が奇妙な医学現象をまとめた自著で書いたんですが」
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