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「そんなに昔なんですね」
「うん。でもそこに記されていたのは更に昔の事例で、ヴォルスティウスというイタリアの騎士が、1470年にミラノにある自宅で強いワインを飲んだ後、突然口から炎を吐き出し始めて、全身が炎に包まれた。それが、人体自然発火が報告された史上初の記録だと考えられています」
「口から炎を……」
その光景を想像し、夏美は息を呑んだ。
「ゴジラみたいだね」と三ッ谷が笑ったので横目で睨む。彼は肩を竦めて口をつぐんだ。
「その後、フランスの作家が、人体自然発火についての症例と研究をまとめた本を出版したりというのも16世紀にありました。だからその頃には、けっこうよく見られていたのかもしれませんね。たぶん、中にはきちんと説明のできることもあったと思うんですよ。昔のことだから、ランプの火が引火して、たまたま強いアルコールがそれを強めた、とか。ただ、説明のつかない現象も含まれていたのは確かだと思います」
「最近はどうなんですか?」
「2000年代になっても、頻繁とは言わないけど散見されてますね。2010年にはアイルランドで、2017年にはロンドンで、それぞれ男性が自然発火現象によって命を落としています。その16世紀の記録から現在までの間に、400件以上の報告例があるそうですね」
「400件以上かぁ。確かに年月を考えると多くはないですが、不気味ではありますね」
「そんな妙な死がしょっちゅうあったら困るしね」
夏美と三ッ谷が交互に言うのに頷くと、長瀬は続ける。
「原因としては、いくつかの説があります。一つはロウソク効果。犠牲者の体がロウソクのような状態になって燃えた、というものですね」
「人の身体がロウソクになっちゃうんですか?」
唖然とする夏美。
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