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「ロウソクは、中央の芯が燃えやすい脂肪酸でできたロウで覆われている。芯に火がつくと、脂肪分の多いロウを燃料として燃え続ける。これが人の身体とすると……」
腕を組み、考えながら三ッ谷が言った。それを長瀬が引き継ぐ。
「そう。人間の体脂肪が可燃性物質、つまりロウで、犠牲者の衣服や髪が芯。例えばタバコの火が衣服についたとすると、皮膚の表面が焦げて、皮下の脂肪が露出する。熱で脂肪が溶けて衣服に吸収されると、ロウのような役目を果たして、芯が燃え続けることになる。燃料になるものがそこにある限り、火は燃え続ける……」
「体脂肪の多い人が燃えやすい、ってことか。考えてみるとあたりまえかもね。太らないように気をつけなきゃ」
「あくまで説の中の一つだよ」三ッ谷の軽口に笑って応える長瀬。「それから、それに近いけど、アセトンが原因だという説もあります」
「アセトン? 何ですか、それ?」
夏美は怪訝な表情になって訊いた。この2人が話を始めると難しい用語が出がちなので、時折確認しないとついていけない。
「アセトンは分子が小さくて溶けやすく、水にもほとんどの油脂にも溶けるので、様々な用途に有機溶媒として用いられている物質ですね。たとえば除光液とか。あと、車やバイクのメンテナンスにも使われることがあります。オイル汚れなどを落とす役割を果たすんですよ。でも、すごく燃えやすいっていう特徴もあるんです。だから取扱注意。アセトンに浸した豚肉に火をつけてみると、焼夷弾のように爆発的に燃えあがるともいうし」
「そのアセトンが、人体自然発火現象の原因に?」
「人はなんらかの病気になると、体内に自然にアセトンが増えることがあるんですよ。健康状態の悪い人の体内で多量のアセトンがつくられ、それが脂肪組織に蓄積して、静電気やタバコなどによって引火したっていう考え方ですね」
そうやって聞いていると、人体自然発火というのもオカルトではなくリアルな現象なのだと思えてしまうから不思議だ。夏美はただ感心するしかなかった。
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