SCENE12 神奈川県警科学捜査研究所

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 「それらとは別に、球電現象が原因だという説もあります」  「球電? 大気中を帯電し発光する球体が浮遊する物理現象、だよね?」  三ッ谷が興味深そうに訊いた。夏美にとってはさっぱりわからない話だ。申し訳なさそうに手を上げた。  「あのう、私にもわかるように説明してもらえますか?」  「球電は、雷雨の際にごくまれに発生する現象なんだ。非常に強いエネルギーを帯びた発光体が、球状となって空気中を漂う。落雷による放電現象で空気中に大量に放出された電子が、強力なエネルギーを持つ電磁波の塊のような球体になるんじゃないか、って考えられている」  三ッ谷が得意げに言う。長瀬が続けた。  「そう。電磁波の塊というほかにも、一説には、落雷による影響で地中に含まれている金属のケイ素が一瞬に蒸発して、微粒子となって大量に空中に放出された際に集まりあいながら燃焼し、熱を帯びながら火の玉のような球体を形作るものとも言われてるね。いまだにその仕組みは完全には解明されていないけど」  「その球電が人の身体にぶつかって、燃えあがることもあり得る、と?」  やっぱりちんぷんかんぷんだが、夏美はとりあえずわかる範囲で訊いた。  「うん。簡単に言うとそうですね」  笑顔で頷く長瀬。彼は知識不足の者を見下すようなことがないので、夏美も遠慮なく質問できる。  「今回の4件の死体検案書や解剖データを見て、それらの説が当てはまるような痕跡はあった?」  三ッ谷が長瀬に訊く。彼は即座に首を振った。  「断定はできないけど、そんな痕跡はなさそうだなぁ。あえて言うならアセトン説だけど、人の体内では常時生成されて、体に必要な成分として常に代謝の過程で利用されているから。データを見る限り、それが異常に多かったという事もないし」  「じゃあ、何だろうね?」  三ッ谷が夏美を見ながら言う。
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