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SCENE13 横浜市内 とある土手
10月もそろそろ半ばを過ぎ、時折ひんやりとした空気も感じられるようになった。
立木は高い土手の上を歩きながら、少し先にあるショッピングモール「ららぽーと横浜」の建物を何気なく見ていた。後方には、JR横浜線が走っている。
下の芝生の広場には、親子連れが数組いた。母親達は立ち話をしており、子供達は追いかけっこのようなことをして遊びまわっている。
土手の上をランニングしたり、散歩する者もいた。
平日の午前中だが、それなりに人が行き来している。見晴らしがいいので様子がよく見えた。
公安捜査官と会うにもいい場所だ――。
のんびりとした感じで歩いていた立木は、指定されたベンチに近づいていく。そこには、すでに中年の男性が座っていた。ポロシャツにチノパンというラフな格好だ。近くの住民が散歩に来て一休み、という雰囲気。見事に風景にとけ込んでいる。
立木は彼が座るベンチに相席する。特に視線を合わせたりしない。あくまでも他人を装っている。
何気なくまわりを見る。ここからなら、誰かが見張っていた場合すぐに気づく。今のところ、そんな影はなかった。
「津山さん、ですね?」
口を極力動かさず、小声で訊いた。もちろんどちらも別の方を向いたままだ。
「はい」
男性が簡単に応える。やはり口は動いていない。津山巌。焼死したうちの1人、公安捜査官だった白石の同僚だ。
「立木です」
「存じ上げています」
おそらくこちらのデータは、顔写真込みで確認済みなのだろう。
2人とも外事課に所属していたようだ。それは立木が伝手をたどって掴んだ。だが内部がどのような構成になっていて、彼らがどんな係にいたのかまではわからない。
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