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「そんなことが……」立木は愕然とした。「では、もしかして、白石君の死については?」
「いったいどんな方法を使ったのかわかりませんが、我々は、殺されたと思っています」
やはり……。頷く立木。あれら4件の不審な焼死が殺人として捜査されていないのは、公安の取り扱う案件だったためだ。
「別の公安捜査官も同じように焼死しています」
「高井信忠さん、ですね」
「そうです。彼も同様の捜査をしていた。ある日本の団体が裏でファントムの日本支部のような活動をしている。その理事、顧問として大物の与党議員が就いている。そして、公安警察上層部の一部が協力している。それらの疑いについて調べている最中の出来事でした。あんな奇妙で恐ろしい死に方が連続で起こるなんて、偶然のワケはない」
抑えた口調だが、怒りと恐れとが混じり合っているように感じられた。
「その、ある団体とか議員、そして警察官僚について、詳しく教えていただくわけにはいきませんか?」
立木が大きく伸びをするフリをしながら言った。
「それは、できません。これは、我々公安警察の取り扱う事案なんです」
相変わらず顔を伏せたまま話す津山。
「殺人でもあります。それに、公安とか刑事ということにこだわっている場合ではないでしょう」
「それはわかりますが、下手に捜査体制を拡大させるのは、どちらにとっても危険を伴います。非常にデリケートな案件なんです」
立木がふうむ、と唸る。そのまま、2人しばらく黙り込んだ。
子供達のはしゃぐ声が聞こえてきた。それに被さるように電車が過ぎていく音――。
不意に津山が身体を起こした。デニムのポケットからスマホを取り出す。着信があったようだ。無垢な一般市民、という表情に戻って電話に出る。
「え?」と微かに彼が驚きの表情を浮かべる。そして「了解しました」と言ってスマホをしまった。
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