SCENE13 横浜市内 とある土手

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 「知ったうえで、手を引けと?」  「手を引いてほしいというより、ひとまず保留にしていただきたい、と言った方がいい。我々の方でケリをつけたり、あるいは何らかの終着点が見いだせたならば、報告すると約束します」  うーむ、と息を漏らす立木。今すぐ自分1人の判断で応えられることではない。  「お話を聞いてから判断する、というわけにはいかないでしょうね?」  おそらく無理だろうと思いながら訊いてみる。やはり藤田の応えは「それは勘弁してほしい」だった。  「まさかこの電話で説明してただく、というわけではありませんよね?」  「もちろん、直にお会いして話をしましょう。あなたと、今一緒に捜査をしている、月岡夏美刑事も一緒に。捜査一課の可憐な花と呼ばれているそうですね。お目にかかれるのが楽しみですよ」  軽口のように言うが、どこか無理をしているようにも感じる。  しばし考え込む立木。手を引く、いや、保留だとしても、簡単に了承するわけにはいかない。だが、そうでなければ話を聞くことはできない。となると、探り合いに持ち込むしかない。  「私の一存で今お応えするわけにはいきません。月岡や班長の徳田と検討した上で、保留にするかどうかは決めます。その結論を持って、あなたに会いに行きたい。それでいかがですか?」  「ふうむ」と一瞬考え込むような声を出す藤田。だが、こちらの応えをあらかじめ予想していたのだろう。すぐに返事がきた。「わかりました。それでは……」  翌日の昼間の時間、そして場所を簡単に伝えてくると、藤田は電話を切った。  立木はしばらくベンチに座り、青空やまわりの風景を眺めたあと、ゆっくりと立ち上がる。また、のんびりした感じで歩き出した。  心中には黒い雲が漂いはじめている。  これは、かなりでかくてヤバイ事案に行きあたってしまったようだな……。
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